不動産を売る際は、普段はあまり馴染みのない税金を支払わなければなりません。
計算方法が独特なうえ、損失が出た場合は違う考え方になるため、心配な気持ちを抱えている人もいることでしょう。
そうは言っても、しっかり理解すれば、そのような不動産関連の税金であっても考え方はそう難しくありません。
また、譲渡損失がでた場合には税金を安くできる方法もあります。
ここでは、売却を検討中の人に向けて、不動産売却益および税金の解説をします。
不動産を売る際は、印紙税と譲渡所得税の2種類の税金を支払います。
印紙税は比較的シンプルなうえ、税額もさほど高くありません。
まずは、売却益に対して課税する譲渡所得税の、算出方法や申告方法の紹介です。
本来、不動産を売った際の税金は印紙税、住民税、所得税の3種類です。
ここに登場する、住民税および所得税の額は売却益の金額に左右されます。
譲渡所得税は、住民税および所得税を2つ合わせて表す際の呼び方です。
ほぼ1種類の税金と言ってよいため、ここを理解できれば不動産売却にまつわる税金はマスターしたと言えるでしょう。
印紙税は至ってシンプルで、不動産の契約金額を元に算出する、すでに決まった税額であるためです。
契約金額が1万円未満なら非課税、そこから契約金額が上がるにつれて税額も上がっていきます。
契約金額が1億円未満のようなごく普通の物件であれば、印紙税は高くて6万円なので、取引を通じて動く金額に比べれば些細な額です。
譲渡所得税は、課税譲渡所得×(所得税率+住民税率)の式を使って求めます。
ここで押さえておきたいのが、所有期間で税率が大きく変わる点です。
所有期間が5年以下なら、所得税は30.63%、住民税は9%で、合計税率は39.63%です。
5年経過がターニングポイントで、所有期間が5年を超えると、所得税は15.315%、住民税は5%、合計税率は20.315%となります。
例えば、課税譲渡所得が1,500万円、4年所有した場合、譲渡所得税は1,500万円×39.63%=5,944,500円です。
一方、所有期間が5年を超えると、課税譲渡所得こそ同じであっても税額は1,500万円×20.315%3,047,250円に下げられます。
この基礎的な計算方法から考えると、5年を超え、所有期間条件をクリアできるなら売却も悪くない話だと言えるでしょう。
印紙税は、税額に応じた収入印紙を不動産売買契約書に貼って納めます。
通常、売買契約書は売主と買主で1通ずつ所有するため、それぞれ印紙代を負担し合うのが一般的です。
一方、その他の税金は年末調整の際に確定申告をして納めます。
サラリーマンなど、普段は確定申告と関わりない人でも同様です。
確定申告の期限は、売却年度の2月16日~3月15日に設定されています。
確定申告を忘れて追徴課税が発生する事態に陥らないよう、申告期限には注意しましょう。
ここまで、物件売却時の税の概要や計算方法を紹介してきました。
これは売却益を元に計算しますが、売却益を見込めないケースもあるかもしれません。
そこで、そのようなケースの考え方や、譲渡損失の金額を1年間の他の所得と損益通算する方法について解説します。
不動産売却時においては、印紙税こそ常に必要ですが、譲渡所得税額は課税譲渡所得を元に求めます。
売却益がない、すなわち譲渡損失となった場合は、計算ができないため課税されません。
ですので、確定申告は必須ではなくなります。
譲渡損失となると、そもそも譲渡所得税が発生しないため、確定申告は必須ではありません。
しかし、居住用財産を売却して譲渡損失が発生した場合には、売却益が生じた場合と同様に確定申告を行っておいた方がよいでしょう。
なぜなら、その年の事業所得や給与所得など他の所得と損益通算することで所得税や住民税を減らせるからです。
詳しくは後述しますが、条件に合致するようなら所得税と住民税を年単位で差し引ける可能性も少なくありません。
住民税も所得税も売却益から発生する都合上、物件売却時の税金は安くても売却益の2割程度となるのが通常です。
しかし、税負担を軽減できる方法も存在します。節税のための具体的な方法は、以下の3点です。
10年以上所有し続けた居住用不動産は、譲渡所得税率の軽減措置の対象になります。
気になる税率は、課税譲渡所得が6,000万円以下の場合は10%、6,000万円を超える部分については15%です。
例えば、8,000万円の課税譲渡所得となったケースを考えてみましょう。
通常の長期保有の譲渡所得税の計算式によれば、譲渡所得税は8,000万円×20.315%=16,252,000円です。
一方、軽減措置をとると、6,000万円×10%+2,000万円×15%=900万円となります。
軽減措置は、確定申告の際に譲渡所得の内訳書と売却した不動産の登記事項証明書を提出すれば適用を受けられます。
マイホーム買い替えの場合、不動産の譲渡区分は「売却」から「買換え」へ変更されます。
買換えの際、旧居宅の売却につき譲渡損失が生じた場合、その損失は損益通算の対象になります。
すなわち、その損失をその年の事業所得・給与所得など他の所得から控除することができ、その結果として、課税所得が減額されて節税効果が生じます。
また、損益通算によっても控除しきれなかった分は、翌年以降3年以内であれば「繰越控除」することもできます。
言い換えれば、売却した年の損益通算と合わせて最長4年間、所得税や住民税がゼロとなったり軽減されたりします。
5年を超える所有期間をはじめ充足すべき要件は多く、また、年数も単純計算ではなく、計算の基礎となる期間が指定されています。
たとえば、自宅を売却した年の前年1月1日から翌年12月31日までに新居を取得し、取得した年の翌年12月31日までに入居または入居の見込みであることなどです。
なお、新たに取得する住居は、床面積が50㎡以上ないとこの特例の適用を受けられないことにご注意ください。
以前住んでいた家の場合も、単純計算ではなく、譲渡した年の1月1日時点で5年を超えている必要があります。
マイホームを買い替える場合、多くのケースで譲渡損失が発生してしまいます。
その際も、確定申告を行っておけば、本来支払い義務があった税金をある程度免れることができるのです。
加えて、譲渡損失が出た場合だけでなく、売却益が出た場合も課税の繰り延べが可能です。
買換えの特例の適用を受けると、売却益への課税が家を売った時点ではなく、新しく買った家を売るときまで繰り延べられます。
この場合も、新しい家については床面積が50㎡以上あることなどが要件となり、また、古い家についても、売却代金が1億円以下で、取り壊し日の属する年の1月1日の時点で10年を超える期間保有している必要があります。
非課税とはなりませんが、支払いに余裕が生まれるのでおすすめです。
売却以後にも引き続きその不動産の住宅ローンを支払う場合、購入価格-売却価格の分を一般所得の控除に含めて構いません。
控除が適用されるのは、売却した年より数えて3年間です。
例えば、5,000万円で購入した不動産の売却益が2,000万円となった場合、一般所得の控除に含められるのは5,000万円-2,000万円=3,000万円です。
所得税率が20%であれば、3,000万円×20%=600万円分の税金の負担を減らせます。
控除を受ける年の合計所得金額が3,000万円以下であり、売却した不動産の所有期間が売却年の1月1日時点で6年以上なら控除の対象です。
加えて、この制度は損益通算・繰越控除の特例との併用が認められているうえ、マイホーム買い替えのためローンが残った際にも「新居の購入価格-旧不動産の売却価格」として一般所得より控除できるのです。
不動産の売却益が多く出ると、税金の支払い義務も多く発生します。
しかしながら、譲渡損失が出た際は利益が出ていない以上、譲渡所得税のかけようがなくなるうえ、損益通算や繰越控除といった節税方法もあります。
制度の適用を受けるための要件が細かく規定されていますので、不動産業者らとも相談しながら慎重に売却すべきか判断してみてください。