夫婦で一戸建てを購入しても、その土地建物は名義人の財産となり、夫婦二人ともが所有者になっていることはあまりありません。
法律のことは難しくて分からない…そう思って放置していると、いざその土地建物の相続が発生したときに困る方が多いようです。
民法には、相続に関する基本的なルールが定められているのですが、今回約40年ぶりに大きく見直しが行われました。
高齢化や社会環境の変化に対応するための民法改正なのですが、いったいどこが変わったのでしょうか。
今回の民法改正では、配偶者の居住に関する権利を保護するための方策が新たに盛り込まれました。
この居住権は、大きく分けて2つあります。
改正前は、亡くなった人の遺言により第三者に土地建物が渡ってしまい、亡くなった名義人の配偶者が家を出ていかなくてはならないといったケースがありました。
しかしこの短期居住権によって、その家に住んでいた配偶者が遺産分割に関与する場合、どのように分割されるのか確定するまでの最低6ヶ月は住み続けられるようになりました。
また、土地建物が他人に贈与されたケースや相続放棄した場合は、所有者からこの土地建物から出ていくように要求されてから6ヶ月間のみ住み続けられます。
最低でも6ヶ月は無償で住み続けることができますが、6か月間でその後の生活の場を確保しなければいけませんから、この短期居住権には注意したほうがよさそうです。
改正前は、住んでいる土地建物を相続する場合は、現金などのほかの財産を多くはもらえず、住む家はあっても生活していくお金がないといった問題がありました。
しかし今回の民法改正では、土地建物を相続しながら、ほかの財産ももらえるようになったのです。
たとえば、配偶者と子1人の相続人がいるケースで、土地建物の価値が2,000万円、貯金が3,000万円で、合計5,000万円の遺産があったとします。
配偶者と子の相続は折半なので、5,000万円の遺産の半分である、2,500万円が配偶者の相続分です。
改正前は、2,000万円の価値がある土地建物を相続した場合、現金は残りの500万円しか受け取れず、生活費に困るといったケースがありました。
しかし今回の民法改正では、土地建物の半分の1,000万円を子供が負担付き所有権として相続し、配偶者は残りの1,000万円を居住権として相続できるようになります。
つまり、家と貯金の合計5,000万円のうち、半分の2,500万円相続する場合、居住権でそのまま家に住み続けながら、2,500万円-1,000万円=1,500万円の現金も受け取れるのです。
住む場所も老後資金も確保して、安心して生活できるように見直されたというわけですね。
配偶者が土地建物の所有権をまったく相続しなかったとしても、その土地建物を使用し続ける権利は保障される画期的な改正なのです。
別居をしていた場合や、土地建物の登記簿謄本に配偶者居住権を登記していない場合はこの居住権は見認められないので、注意が必要です。
また、結婚して20年以上の夫婦についての措置もとられています。
改正前は、配偶者が土地建物を生前にもらっていた場合、生前贈与分をなかったものとみなし、持ち戻して計算していました。
つまり、先にもらっていた分も含めて子供と折半して、遺産総額の半分から生前贈与分を差し引かれるため、生前に受け取っていてもいなくても差がありませんでした。
しかし今回の民法改正では、生前贈与分は持ち戻さないで計算するため、遺産の残りの額の半分と生前贈与分は残り、最終的には配偶者は他の相続人より多くもらえるようになったのです。
財産は遺言書に基づいて分割されるものですが、これについても民法改正によって変わった部分があります。
遺言書は、残す人が全文を手書きで作成する必要があり、添付する財産目録も含めると大きな負担になっていました。
今回の改正では、自筆でなくてもパソコンで作成でき、また財産目録も通帳などのコピーを添付すればよいので、負担が軽くなりました。
ただ、財産目録の全てのページに署名し、押印しなければいけませんので注意しましょう。
せっかく書き残しても家族に見つけてもらえなければ意味がありませんし、家族に保管場所を伝えておいても、紛失や改ざんの恐れがあります。
今回の改正では、そのような心配をなくするために法務局に保管してもらえる制度ができました。
本人確認書類の提出が必要ですが、遺言書原本を保管してくれますし、画像データも記録され、相続人は全国どこの法務局でもデータを見ることができるので手続きも以前に比べると簡単にすみます。
しかし、家族が法務局に問い合わせないと見つかりませんので、法務局に保管していることを家族に伝えておきましょう。
遺言書を書きなおした場合は、法務局にて手続きをとって古いものの保管を撤回し、最新のものを保管するようにしましょう。
遺言は、自分の財産をどうするのかという意思を最終的に明確にするものです。
たとえば、家族以外でお世話になった人に贈与したい場合や、寄付したいなどという思いも含めて遺志を実現するものです。
また、亡くなる前にはっきりと意思を記しておけば、遺族の間で起きるかもしれない争いを未然に防止できるかもしれません。
書類を揃える苦労や、財産目録を手書きで書くのが困難な場合など、今までは手続きが大変だと思っていた方も多いでしょうが、今回の民法改正は、遺言の活用をすすめるよいきっかけになるかもしれませんね。
高齢化社会になり、将来の介護に対する不安を抱える方も多いのではないでしょうか。
自分の親、または配偶者の親の介護をしている人は増加していますが、労力だけでなく自分のお金を介護に使っている場合も多いのではないでしょうか。
今回の民法改正によって、介護についても変わった点があるので紹介します。
たとえば親を介護していたのに、遺産を何ももらえない…。
このようなケースは多いでしょう。
今回の民法改正では、相続人以外で、亡くなった人に無償で介護したり労力を提供した親族にも特別寄与料がもらえるようになりました。
しかし、以下の条件をすべて満たしていないといけませんので、注意してください。
・亡くなった人に対して介護や、事業などを手伝った
・そのことによって財産が維持できた、または増加した
・亡くなった人の親族(6親等内の血族と3親等以内の姻族)
内縁の配偶者は姻族ではないのでこの中に入りませんし、認知されていない子供は血族ではないので、この条件を満たしません。
そのほかにも、見直された点があるので紹介します。
改正前は、遺産分割が終了するまでは、相続人単独で亡くなった人の預貯金を払い戻すことができませんでした。
これによって、生活費や葬儀費用の支払い、また残った借金の返済があっても、お金を捻出する困難が生じるケースが多くありましたが、今回の民法改正で、家庭裁判所の判断を待たずに単独で払い戻せるようになったのです。
しかし、預貯金額の3分の1×自分が法的にもらえる分が限度額で、さらに同一の金融機関では150万円までと制限があります。
遺留分は、相続人が最低限もらえる分のことです。
たとえば、遺産全てを特定の人に渡す内容や、兄弟で分ける金額が違う場合があったとします。
この場合、最低限自分がもらえる遺留分に対して不足している金額を、遺留分を超えている人に請求の申し立てができるようになったのです。
しかし、遺産が現金ではなく土地だけだった場合や、不足分を現金で払えない場合もあるので、その場合はどのようにするのか、課題が残りそうです。
民法改正によって、配偶者の権利や、遺言や介護についても大きく変わりましたが、制限や条件がそれぞれ定められているので、それぞれ注意が必要です。
法律は生活を守るためのもので、相続に関することは老後に大きく影響するので、この機会にぜひ知っておいてください。