2020年4月1日から、主に債権法を改正した新しい民法が反映されます。
これは約120年ぶりの大規模な民法改正で、不動産売買においても現行の「瑕疵担保責任」が「契約不適合責任」に転換されるなど、その影響は計り知れません。
大まかに言えば中古物件を探しやすくなったため、新築物件とも比較しやすくなります。
まずは、民法改正によって変更される瑕疵担保責任について、これまでの事例を交えて現在の不動産売買における状況を具体的に解説します。
瑕疵担保責任とは、民法第570条などにある文章「商品に何らかの瑕疵があれば売主がその責任を取らなければならない」を根拠とする規定です。
瑕疵とされるものは契約者間のトラブルになりうるものであれば、キズや欠陥など幅広く該当します。
しかし、具体的に定義されているわけではないため、過去の判例や法律解釈によって瑕疵か否か事例ごとに検討されていました。
過去に物件で起きた事件などによる心理的瑕疵や近隣からの騒音などによる環境的瑕疵なども、程度によってその対象となります。
瑕疵担保責任の対象となる瑕疵は、契約時点では注意していても買主からはわからなかった「隠れた瑕疵」です。
瑕疵発生および発見時期は不動産売買後期間を問わないうえ、対象となれば、瑕疵を知っていながら引き渡したものでなくても損害賠償や契約解除に応じなければなりません。
とはいえ瑕疵担保責任に関する規定は任意規定、つまり強制ではないとされた判例や解釈も多いです。
あまりに売主への責任が重く、一般的な不動産売買上の慣習に当てはめても責任を負う期間が長いため、責任を負う範囲を一部免責して制限をつけた契約も多く存在しています。
実際のところ、瑕疵発生期間については民法の別規定から原則10年間とされているうえ、瑕疵発見後は1年以内に損害賠償の請求などを含めて行動を起こさなければなりません。
特に中古住宅においては不動産売買契約が締結した日から3カ月程度にまで制限されたケースが多く、中には最初から売主の瑕疵担保責任なしとされているものもあります。
中古住宅ではいわゆる「訳あり価格」での販売も多いにも関わらず、多くは3カ月程度しか保証期間がありません。
このように民法改正前の瑕疵担保責任は、ほとんど新築物件用の保証と位置づけられた側面がありました。
では、民法改正後に代わって導入される契約不適合責任とはどのようなものなのでしょうか。
民法改正後の最たる違いとしてまず挙げられるのが、規定の名称が契約不適合責任に変更される点です。
「契約の内容に適合しないもの」として、民法改正前よりわかりやすく、幅広く該当するようになりました。
単語としての「瑕疵」は使えますが、瑕疵担保責任そのものが廃止され、より一般的な制度である「債務不履行責任」に該当します。
このため、不動産売買独自の考え方が減り、手続きがシンプルになったり買主が取れる対策が増えたりします。
「契約の内容に適合しているか否か」がポイントとなるため、隠れた瑕疵だけでなく買主が理解していた瑕疵でも、契約に適合しないほど重大であれば契約不適合責任の対象です。
民法改正後は損害賠償と契約解除だけでなく、単に修復を請求する追完請求や不動産売買代金の減額を要求する代金減額請求も行えます。
とはいえ、民法改正後の契約不適合責任では売主側の責任のバランスも調整されました。
例えば、地震によって入ったヒビなど、売主に問題点がない瑕疵に対しては損害賠償の請求ができなくなります。
また、契約不適合責任を問う買主の権利については、行使できる期間が短くなる可能性があります。
瑕疵の事実だけでなく、瑕疵によって責任を問う権利を行使できる事実を知った時期が権利行使期間に関わるためです。
民法改正後は権利を行使できると知ってから5年間経過した際も、時効として契約不適合責任の請求権が消滅します。
つまり、瑕疵の事実と同時に請求権を行使できる事実を知った場合、民法改正前より売主に責任を追及できる期間が短くなってしまうのです。
トラブルになりうる瑕疵としてではなく、不適合そのものを知った時から1年以内に通知をしないと失権するとも定められているため、全体的に早めの連絡がトラブル対策のポイントとなります。
民法改正後は瑕疵担保責任が契約不適合責任に代わり、保証を受けられる瑕疵の幅がより広がります。
とはいえ、他の購入者も責任を追及しやすくなっているため、解決までの長期化を防ぐ意味でも避けられるトラブルは避けるに越したことはありません。
2018年4月から「改正宅地建物取引業法」が施行され、中古住宅を仲介する業者には売主と買主の両方にインスペクションの説明をしなければならないと義務づけられました。
また、インスペクション済みの物件は、不動産売買の契約前にその結果も開示しなければなりません。
そのため、今後は既存住宅インスペクションを中心に、インスペクション実施の有無が不動産売買の重要な要素となると考えられています。
似た概念に、宅建業法に定められた「建物状況調査」があります。
建物状況調査はインスペクションで行われる検査の1つで、行える人物の資格や基準がより厳格です。
ホームインスペクションは、新築の不動産売買であっても有効な対策です。
そのメリットとして、瑕疵が見つかった場合の責任所在がわかりやすくなる点が挙げられます。
民法改正後はこれまでより責任を追及できる期間が短くなる可能性もあるため、より早い瑕疵の発見がポイントです。
ですが、新築物件はこれまで誰も住んでいないため、瑕疵となるものはすべて自分で発見しなければなりません。