自宅を新たに建築するとき、またそれまで住んでいた自宅(空き家)を解体するときに「お祓い」をおこなう風習が、日本には古くからあります。
建物を解体するときにおこなう儀式を「解体清祓(かいたいきよばらい)」や「解体式」と呼びますが、この儀式にはずっと家屋を守ってきた神様に感謝し、これからおこなう解体工事が無事終了するようにお祈りする意味があります。
「建物を解体するときは必ずお祓いをしないといけないの?」そんな疑問をおもちになる方がいるかもしれませんが、結論からいえばお祓いに科学的根拠はなく、必ず実行しなければならないものではありません。
ただ現実として空き家の解体前にこのお祓いをおこなっている方は多く、長く住んでいた家に思い入れのある人、家の神様(屋船久久遅神(やふねくくのちのかみ)と屋船豊受姫神(やふねとようけひめのかみ))に感謝したい方、解体工事の安全を願う場合などさまざまな気持ちが込められています。
今回は空き家の解体工事前におこなわれるお祓いとその意味、遺品整理などについてまとめています。
<空き家解体の前におこなわれるお祓いは「解体式」>
空き家解体の前におこなわれるお祓いは「解体式」や「解体清祓(かいたいきよばらい)」と呼ばれます。
開式の辞から始まり、降神の儀、祝詞奏上、清祓いなどの儀式を経て昇神の儀、閉会となり約1時間程度の時間がかかります。
日本人は古来より「この世にある物には神様が宿っている」という神道の精神を受け継いでおり、それは地面はもちろんずっと家族を支えてくれた自宅(部屋)に関しても同じです。
ずっと家族を守ってくれた家屋とその神様に感謝し、これから空き家を解体することを報告し許可を受け、工事中の安全を祈るのです。
<空き家解体後におこなわれる「地鎮祭」>
空き家を解体した後、土地をずっと更地のままにしておくのであれば問題ありませんが、もしその土地に自宅を建築するのであれば「地鎮祭」を執り行います。
土地の守り神・産土大神(うぶすなのおおかみ)、大地主大神(おおとこぬしのおおかみ)など主要な神々をお祀りし、これから始まる工事の安全、そして建物や土地に対する安全、家族の健康などを祈願するのです。
地鎮祭は多くの方が実際におこなっており「科学的根拠はない」とはいえ、人の心理に与える影響が大きいことがわかります。
<家以外のものを解体するときは?>
神道の精神「すべての物に神様が宿る」の精神に基づくと、土地や家屋だけではなく、井戸や樹木にも神様が宿ることになります。
空き家の解体と同時に井戸の解体や樹木の伐採などおこなう場合は、これら空き家以外の物も同時にお祓いしてもらうと手間がかかりません。
井戸を埋める場合は「井戸埋清祓(埋井祭)」を、樹木を伐採する場合は「樹木祓」をおこないます。
解体式と同じく必ず実施しなければならないものではないので、お祓いをする・しないに関してはご家族とよく話し合い納得したうえで結論を出すのが一番です。
<解体式や地鎮祭の意義>
地鎮祭の歴史はとても古く、弥生時代までさかのぼることができると言われています。
弥生時代に始まったとすればすでに1700年~2300年もの間、日本人に根付いてきた重要な儀式とも言えます。
それなりの意味や意義があり、多くの人たちが重視するのは当然かもしれません。
解体式では家屋の守り神に「今まで無事に暮らせたことを感謝し、解体の許可をもらい、工事中の安全を祈る」意味がありますし、地鎮祭には「土地や大地の守り神に、工事の安全やこれから建築する建物やそれを支える土地の安全、家族の健康を祈願する」意味があります。
工事の着工に合わせて着工式をおこなうこともありますが、地鎮祭と意味は同じです。
<もしお祓いをしなかったら?>
科学的根拠の一切ないお祓いですが、人の心に与える影響は無視できません。
もし解体式をせず工事を始め、もし事故が起こってしまったら?新築した家に住み始めた途端に病気になってしまったら?
科学的根拠はなくても気になってしまいますね。
もし家族が「解体式や地鎮祭をしましょう」と主張するのであれば、その意見には賛同しておくのがよいでしょう。
もしお祓いをしないまま悪いことが起きると不安になりますし、後悔することもあり得ます。
<お祓いにかかる費用について>
お祓いにかかる費用については以下のようになります。
・解体式…初穂料2~3万円、お供え物などに5,000円~1万円。出張費が必要であれば別途支払います。合計5~6万円が目安。
・地鎮祭…初穂料やお供え物に必要な金額は解体式と同じですが、近所の方に粗品を用意する、地鎮祭後に宴会を開くとそれら費用も発生。約10~20万円前後が目安。
・井戸祓や樹木祓…井戸祓や樹木祓の初穂料は2~3万円前後が相場。
解体式はそれほど大きな金額がかからないため「空き家解体後のことが心配・愛着のある家だからお祓いしたい」という方はお願いしておくとよいですね。
<遺品整理ではお祓いは必要なし>
ご家族が亡くなった後、故人の残した遺品の処分には頭を悩ませてしまいます。
粗大ごみなどをご家族が少しずつ処分していくのであれば費用も安くすみますが、量が多いときは遺品整理専門業者にお願いする方もいます。
遺品に対して「お祓いは必要なの?」と疑問をもつ方もいますが、基本的に遺品をお祓いは必要ありません。
お祓いは部屋や場所に対しておこなうものなので、故人が愛用していた家具や衣類をお祓いしてもらうことはできません。
もし故人の使っていたものをゴミとして捨てるのではなく、きちんとお祓いしてもらいたいのであれば「ご供養」してもらうのが一般的です。
ご供養は物に対しておこなわれるため、仏壇を処分しようと思えばお寺でお焚き上げする方法が一番丁寧な方法でしょう。
ただ仏壇のご供養は処分費用に含まれているため、依頼者が個別お寺に仏壇を持ちこみお焚き上げをお願いする必要はありません。
<部屋をお祓いしなければならないの?>
お祓いは特定の場所や部屋に対しておこなわれるため、故人の住んでいた家や賃貸の部屋をお祓いする必要はあるのでしょうか?
故人が病院や医療施設で亡くなった場合などは部屋をお祓いする必要はありませんが、もし遺族の気持ちが落ち着かないのであれば個別、お祓いをお願いすることもできます。
ただ故人が病気などで亡くなったり、事件に巻き込まれて亡くなったりなどの事情がある場合はお祓いをする必要があります。
とくに賃貸アパートでは大家は次の住人に入居してもらいたいため、事故物件だからといって放置できません。
きちんとお祓いをして、物件関係者に余計な不安や心配をさせないことが重要です。
また分譲マンションの場合、売却を考えているのであれば事故物件のお祓いは必須。
賃貸物件でも「ここは事故がありましたが、お祓いはきちんと済んでいます」といえば次の入居者の不安も軽減されます。
お祓いは必須ではないのですが、ケースバイケースであることを覚えておいてください。
空き家解体では解体式と呼ばれるお祓いをおこなうことがありますが、これは古来からの風習で科学的根拠はありません。
樹木祓や井戸祓、地鎮祭などのお祓いも同じで、あくまでもご家族の意思により「お願いする、しない」を決めることが大切。
ただ空き家を解体した後や自宅を新築した後に起きるトラブルや不幸が、「地鎮祭や解体式をしなかったから」と両者を関連付けて考えてしまうのであれば、最初からお祓いをしてもらう方が無難です。
お祓いに関しては家族が一人で決めてしまうのではなく、周囲の意見をよく聞いて調整する必要がありますね。